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大阪地方裁判所 昭和63年(ヨ)4434号 決定 1988年12月02日

申請人 石川良夫

右代理人弁護士 梶谷哲夫

同 森博之

同 川下清

同 北本修二

同 小田幸児

同 福森亮二

同 信岡登紫子

同 氏家都子

被申請人 財団法人大阪府農林会館

右代表者理事 抱利夫

右代理人弁護士 井上隆晴

同 青本悦男

主文

一  被申請人は、申請人に対し、昭和六三年一二月三日午後五時から同九時までの間、大阪市東区馬場町三番三五号所在大阪府農林会館五階講堂及び五階第三会議室を革共同政治集会のため、使用させなければならない。

二  申請費用は被申請人の負担とする。

理由

第一  申請人の申請の趣旨及び理由は別紙申請書記載のとおりであり、これに対する被申請人の答弁及び主張は同答弁書記載のとおりである。

第二  当裁判所の判断

一  本件疎明資料によれば以下の事実が一応認められる。

1  被申請人は、大阪府が所有する大阪市東区馬場町三番三五号所在の「大阪府農林会館」(地下一階地上六階の鉄筋コンクリート造で、付近は官庁街。以下、「本件会館」という。)を大阪府から無償で借受け、これを維持、管理している財団法人であり、本件会館の五、六階の会議室等の貸室を対象者を限定せずに一定の使用料を徴収して一時使用させることをその業務の一つとするもの、申請人は、共産主義を志向する政治団体である「革命的共産主義者同盟」に所属し、同同盟が主催する、関西地区における、「革共同政治集会」の開催準備をしてきたものである。

2  申請人は、昭和六三年六月七日、同年一二月開催予定の「革共同政治集会」の会場に予定した本件会館に赴き、被申請人に対し、使用目的である集会の名称が「革共同政治集会」であることを明らかにし、使用日を同年一二月三日、会場への入場予定者数は四〇〇人であるとして本件会館のホールの使用申込みをし、同日、被申請人から、集会の名称・革共同政治集会、使用室・講堂(五階)及び五階第三会議室、使用日・昭和六三年一二月三日(土曜日)、使用時間・午後五時から午後九時まで、使用目的・集会(講演その他)、使用備品・マイク及び移動ステージ、室使用料五万四五〇〇円、備品使用料・六五〇〇円との内容の使用承諾(以下、「本件使用承諾」という。)を得た。申請人は、右同日、使用料の内金として三万円、同年一〇月二二日残金三万一〇〇〇円を被申請人に支払った。

3  ところで、被申請人は、申請人に対し、同年一一月二六日、申請人の集会に反対する集団の活発な抗議活動があり、使用当日も含め今後本件会館内及び同館周辺において大規模な抗議運動が予測され、会館の管理、運営に支障をきたすとし、先の使用承諾を取り消す旨の通知書を送付し、同書面は同月二八日申請人に到達した。

二  被保全権利について

1  前記認定した事実によると、申請人、被申請人間には、遅くとも昭和六三年一〇月二二日の段階において、被申請人は、申請人に対し、本件会館の五階講堂及び五階第三会議室を、昭和六三年一二月三日午後五時から午後九時までの間、集会のため一時使用させることを内容とする契約が締結され、その結果、申請人は、被申請人に対し、前記の内容で本件会館の使用を求める権利を取得したというべきである。

2  これに対し、被申請人は、申請人による本件会館の使用には、「会議室のご使用について」という使用規定の5項(5)、(6)に定める使用承諾取消事由が存し、右条項に基づく使用承諾取消は有効であるから、申請人には、結局、被保全権利が存しないこととなると主張する。

よって検討するに、本件疎明資料によれば、被申請人は、会議室使用申込者に対し、使用申込みの方法、使用料、使用にあたっての注意事項等の内容を盛り込んだ「会議室のご使用について」と題するパンフレット(以下、「本件パンフレット」という。)を交付していたこと、申請人も右パンフレットの内容を前提としたうえで、使用申込みを決定したと窺われること、本件パンフレット5項には、使用承諾後においても被申請人から使用を断わることのできる事由として、「会場の秩序をみだし、公安を害する恐れがあったり、喧騒にわたり、他に迷惑を及ぼすと思われる事態が生じた場合」(5号)、「管理者において不適当と判断した場合」(6号)と定められていること、同年一一月二一日、被申請人に対し、申請人による会館使用につき被申請人の責任を問うという表現で匿名の者からのいやがらせの電話が連続的にかかってきたこと、そのころ、右翼団体の代表と称する者三名が被申請人の理事長抱利夫との面談を求めてきて、その際粗野な言動で申請人による会館使用を許可したことに抗議し、使用許可の取消を強硬に求め、「もし取消さないと、右翼団体が大阪だけでなく東京からも大挙して抗議にくる。」と述べたことが一応認められる。

他方本件疎明資料によれば、同月二二日以降現時点に至るまで、被申請人に対する抗議、いやがらせはなされていないこと、「革共同政治集会」には、過去において、いわゆる右翼団体や他の政治的主張をもつ政治団体が押し掛けてきて衝突の事態が発生したことはなかったこと、昭和五七年ころ、申請人は、「革共同政治集会」の関西地区の会場係りを担当するに至ったが、そのころから現在まで開催された一〇数回に及ぶ右集会はいずれも平穏裡に終了していること(そのうち三回は本件会館で開催)、本件集会の予定する内容は通常の集会と同様、革命的共産主義者同盟の政治的主張に関しての連帯の挨拶、基調報告、決意表明だけであり、特に右翼団体を刺激するような内容のものではないことなどの事実が一応認められるのであって、加えて、前認定のとおり、本件開催予定日時が土曜日の午後五時から午後九時までであり、本件会館所在場所が官庁街であることから近隣住民が特に著るしい迷惑を受ける可能性は少ないとおもわれること、憲法上保障された集会、言論等の自由を実力で妨害しようとする一部団体等の違法行為に対しては警察当局の適切な警備が当然見込まれることなどの諸事情もを総合勘案すると、昭和六三年一一月二一日ころに、被申請人に対していやがらせ電話、右翼団体による抗議があったことをもって、直ちに、申請人による本件会館の使用が本件パンフレット5項5号、6号の定める使用承諾取消事由に該当すると解することはできない。

被申請人の主張は理由がない。

三  保全の必要性について

本件疎明資料によれば、申請人は、前記会場係りとして、多大の時間と費用と労力を費やして本件集会の準備をし、宣伝活動を行ってきたことが一応認められるところ、本件使用承諾の取消しがなされたのは、本件集会予定日のわずか五日前であるから、申請人が、右集会予定日までに本件会館とは別の会場を確保し、しかも、会場の変更を多数の参加予定者や参加を考慮しているものに周知させることは極めて困難であるうえに本件集会の規模、準備状況等に鑑みると、右集会を一旦延期して別の会場で開催することも至難であることが窺われるのであって、被申請人による本件会館の使用承諾取消しによりその使用が不能となれば、申請人は甚大な損害を被ること明らかであり、この損害は本案訴訟の結果を待っていては回復不能となる恐れがあるものと認められる。

四  よって、申請人の本件仮処分申請は理由があるから、事案の性質上保証を立てさせないで、これを認容することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田畑豊 裁判官 齋藤大巳 太田雅也)

<以下省略>

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